
アリゾナドリーム & 金箔を貼られた箱
GILDED BOX SERIES
2013 - 2015
アリゾナドリーム
2013年、宮森敬子はアメリカ西部への旅に出た。アリゾナ、ユタ、ニューメキシコを巡り、先住民族の文化に触れる機会を得た。
彼らの世界観の核のひとつに、「四」という数字の重要性がある。東西南北の四方に象徴されるように、すべてのものは、目に見える世界の奥にある何かとつながっている。その考え方は、宮森に自身の環境との関わりについて、より深く考えさせた。
2015年、彼女は旅の中で採取した拓本を用いて、《Arizona Dream》シリーズを発表した。オブジェは箱の中に収められたものもあれば、アリゾナ州セドナで出会った先住民族との時間から着想を得て、自由なかたちに組み上げられたものもある。
Arizona Dream Vol.3 2014年
和紙、木炭、4つのサイト(山・川・洞窟・古い教会)で採取した枝と石、銅版、セーム革、化繊綿 19.1 × 14.0 × 2.5 cm(箱)
Arizona Dream Vol.1 2014年
和紙、木炭、枝と石、セーム革(組変え自由)
GILDED BOX SERIES
2015年、宮森敬子は旅先で採取した拓本を用いた《Arizona Dream》シリーズとともに、《Gilded Box Series》をギャラリーtでの展覧会《Surface of Being》にて発表した。
このシリーズでは、市販されている商品のパッケージに印刷されたブランドロゴから出発している。箱の地の色に合わせてアクリル絵具を塗ることで、ロゴは次第に背景と一体化し、塗られていない部分も含めて、その輪郭が曖昧になっていく。
やがてロゴの存在は薄れ、ただの「箱」となる。そして、そのそばに添えられた枝は、ある瞬間や「存在の表面」を象徴するものとして、静かにそこに在り続ける。
Apple Pie オリジナルの白いロゴに合わせて地の色を白く塗った箱(内側に金箔)
Apple Pie 2015年
使用済みの箱、17本の枝(各地から)、和紙、木炭、アクリル、胡粉、金箔
10.8 × 10.8 × 3.8 cm
日々の暮らしの中で、私たちは木を目にし、その表皮があることは知っている。けれど、その模様の細やかさには、なかなか気づかない。同じように、日常の中にある物たちも、繰り返される習慣のなかで、表面だけが見られ、その奥行きは見過ごされてしまう。
《Gilded Box Series》は、そうした「日常に埋もれた表面」を見直す試みである。たとえば歯みがき粉の箱やドライバーのケースといった家庭用品も、使い慣れるほどに意味が薄れ、その層が見えなくなってゆく。
宮森は、それらの外観を塗り重ね、物としての輪郭をいったん溶かすことで、内にある「つながり」を見出そうとする。表面がひとつに統合されるとき、そこに刷り込まれていたブランドの意味は消え、ただ「存在」だけが残される。
SOS 2015年
使用済みの箱、17本の枝、和紙、木炭、アクリル、胡粉、金箔
12.7 × 7.6 × 5.8 cm
GRANADAISA ANCHOVIES 2015年
使用済みの箱、17本の枝、和紙、木炭、アクリル、胡粉、金箔
12.7 × 7.6 × 5.7 cm
《金箔を貼られた箱》と《アリゾナドリーム》の両シリーズに登場する「枝」は、物事の表面のさらに奥にある層や記憶を象徴している。
《金箔を貼られた箱》では、都市の日常にあるモノ——たとえば商品パッケージや道具など——の下に隠された意味を見つめ直し、ラベルの背後にある本質に触れようとした。一方、《アリゾナドリーム》は、自然そのものをテーマに据え、その根底にある「すべてがつながっている」という哲学を表現している。
どちらのシリーズにおいても、「枝」は見えている世界の奥にある、目には見えにくいつながりや記憶を示している。