
、、それでも、あなたはかがやく
You Are Unwanted… Yet, You Radiate
2018年
I: 樹拓 The Rubbings
2018年、宮森敬子は、ブルックリン・ゴワナスにあるLESエコロジーセンターのE-Waste Warehouse(電子廃棄物倉庫)にて、アーティスト・イン・レジデンスに選出された。
このレジデンシーでは、参加アーティストに廃棄予定の電子機器が提供され、それらを用いた創造的な再利用の可能性を提示することが求められる。通常であれば廃棄物として処理されるはずの素材に、別の価値と命を与えることが目的とされている。
ゴワナスE-Waste倉庫でのサイトスペシフィック・インスタレーション(2018年)
レジデンシー期間中、宮森は、ニューヨーク市公園局によって伐採予定となっていたゴワナス地区の運河周りの樹木を対象に、拓本を採取した。その後、宮森の樹拓は、倉庫内の無機質なコンクリートの壁に、倉庫内を取り囲む形で連なってインスストールされた。
ゴワナスでの樹拓(2018年)
ゴワナスの運河近くの樹拓
伐採予定の樹木
E-Waste倉庫外での樹拓
それでも、あなたは輝く 2018年 ブルックリンゴワナス地区にある E-Waste倉庫にて
II: サイトスペシフィックなパフォーマンス
それでも、あなたは輝く(You Are Unwanted… Yet, You Radiate) では、10歳の少女・佐藤あおいが、廃棄されたテレビの山のあいだから静かに姿を現す。倉庫の奥深くまで響き渡るのは、山崎阿弥による環境音的なヴォーカル。その音に包まれながら、少女は白いワンピースをまとい、まるで誰もいない空間を歩くかのように、ゆっくりと進んでゆく。彼女の衣服には、宮森がゴワナス周辺で採集した樹の拓本が施されている。
80名を超える観客に囲まれながらも、彼女はその存在に気づく素振りすら見せず、ただひとり、空間を漂うように移動し続ける。観る者は、その静謐な動きに導かれ、広大な倉庫の内奥へと自然に引き込まれてゆく。
それでも、あなたは輝く(2018年、ゴワナスE-Waste倉庫)にてパフォーマンスを行う佐藤あおい
少女は懐中電灯を手に、電子廃棄物が幾重にも積まれた列のあいだを、好奇心と確かな意志をもって歩き進む。光を当てながら、ひとつひとつの物に目を留めてゆく。
やがて彼女は、一台の小さな白い自転車を見つけ出す。観客たちは静かに道をあけ、少女はその新たな宝物にまたがり、ゆっくりと空間を進んでいく。見落とされがちな隅々や、誰の目にも明らかな宝のようなものに目を向けながら、彼女は丁寧に、確かな足取りで倉庫を導いていく。
やがて彼女は、一台のキャビネットに引き寄せられる。中には、小さなカセットテーププレーヤーが静かに収まっていた。白い和紙で包まれたその機器を、彼女はそっと取り出し、床に置く。
彼女がボタンを押すと、プレーヤーは静かに息を吹き返し、やがて語りかける。
「私は望まれていた。私は、必要とされている。」“I wanted, I am necessary.”
それでも、あなたは輝く にてパフォーマンスを行う佐藤あおい写真:マシュー・プレイセック(Matthew Placek)
電子廃棄物として回収されたCDを用いて、光の屈折表現を探る宮森の実験
ゴワナスE-Waste倉庫内に展示された樹拓作品
関連記事 よみタイム
2018年7月27日号 Vol.330 https://yomitime.com/event_072718/0701.html
2018年8月24日号 Vol.332 https://yomitime.com/event_082418/1302.html