金箔を貼られた舟 I, II & III

GILDED BOAT SERIES

2007, 2008, 2011

 

I: 門、舟、そして光

GATE, BOAT & LIGHT

2007

宮森敬子による《Boat》シリーズの第1作は、2007年に制作された。舟の内側に金箔を貼り、先端には樹脂を使うことで、暗い倉庫の中に柔らかな光が浮かび上がるような表現を試みている。

舟の横には、少しだけ開いた古い中国の門が置かれている。そこには異なる文化をひとつの空間に重ねる意図がある。樹脂を通して屈折・反射する光が、中国の門とアメリカの古いカヌーをつなぎ、静かな対話を生み出している。

Detail of Resin Tip on Gate, Boat, and Light 

舟先端部のレジンディテール 門、舟、そして光展より

 
Detail of Chinese Gate

中国の古い門

 
 
Detail of Gate, Boat, and Light   2007   Chinese Gate, Canoe, Gold Leaf, Clear Resin, Wire, Lights 

《門・舟・そして光》ディテール 2007年 中国の門、カヌー、金箔、レジン、ワイヤー、照明

 

II. 傾いた舟と暖かな台座

2008年、宮森敬子はペンシルベニア州フィラデルフィアのアイスボックス・プロジェクト・スペースでのグループ展《Perspectives》に出展するため、木製の大きなカヌーに新たな樹拓を施し、作品として生まれ変わらせた。舟全体を和紙で包み直し、新しい「皮膚」を与えたかたちである。

この舟は、人間が自然とともに生きる存在であることを表している。前作《Gate, Boat, and Light》では、舟を通して「文化」と「人間性」の関係を見つめていたが、本作では、舟がワイヤーで吊られ、不安定に傾きながら、毛皮で覆われた台座の上に置かれている。

この作品はもともと「動物・植物・鉱物・人工物」というテーマで構想されていた。宮森は、生命や物質のさまざまな形を一つの作品の中に表現したいと考えていたのである。

舟そのものは人の手で作られた人工物だが、素材は自然のもの。樹皮からつくられた和紙に包まれ、動物の毛皮の上に置かれ、舟の先端部には宮森がキャスティングした透明樹脂が使われている。異なる命と素材が共に存在することで、自然と人間のつながりを静かに伝えている。

Tipped Boat on Warm Pedestal     2008     Canoe, Charcoal, Washi, Resin, Wire, Fur, Goldleaf 204 x 34 x 18 (H) in.

Tipped Boat on Warm Pedestal 2008年 カヌー、木炭、和紙、樹脂、ワイヤー、毛皮、金箔 518 × 86.4 × 45.7 cm(高さ)

 
 

自然の素材を用いて作られたこの舟は、人間と自然の共生関係を象徴している。しかしその舟は、バランスが崩れればすぐに傾いてしまうような、不安定な角度で吊られている。

時を経るごとに、人間は自然との関係のなかで多くを奪い、他の生き物たちや環境に負担をかけてきた。舟がさらに傾けば、最初に落ちるのは、そこに乗る人間である。

宮森は、この作品によって、自然との関係がいかに繊細な均衡の上に成り立っているかを私たちに可視化させる。舟の内側に輝く金箔のきらめきは、人間の欲望と攻撃性がいまもなお続いていることを象徴している。

Detail of Tipped Boat on Warm Pedestal

Tipped Boat on Warm Pedestal デイテール

III. 屋根のない鳥かごと舟

BIRD CAGE & GILDED BOAT

2011

(上)アメイジア 2011年 カヌー、樹脂、和紙、木炭、金箔、ワイヤー 屋根のない鳥かごと舟展にて 約518 × 86.4 × 45.7 cm


2011年、宮森敬子はグラントを受け、5つの大陸を巡って樹拓を採取する旅に出た。目的は、ニューヨークのISE Foundationで開催された展覧会《Bird Cage and Gilded Boat》のための新作制作である。

2007年と2008年に発表された《Gate, Boat, and Light》および《Perspectives》に登場した木製のカヌーは、新たに採取した拓本によって包み直され、和紙で覆われた鳥かごや、大陸をまたいで集めた樹拓とともに展示された。

"Amasia"とは、将来的にすべての大陸が移動し、一つの巨大な陸塊になるという仮説に基づいた名前である。宮森の《Amasia》では、金箔をまとった舟に5つの大陸の記憶が集められ、人間どうしの根源的な共通性を象徴するかたちとなった。

地理的な結合としてのアメイジア大陸ではなく、宮森が描いたのは、表面的な違いを越えた「人間どうしの深い結びつき」である。

 

屋根のない鳥かごと舟

《屋根のない鳥かご》 は、2011年にニューヨークのISE Cultural Foundationで開催された展覧会《屋根のない鳥かごと舟》にて発表された。

透明な底と屋根のない鳥かご5点が、透明で隙間のある額に収められた樹拓と対になって展示され、それぞれは5つの大陸から採集された樹木の樹拓で包まれている。

異なるサイズの鳥かごは、格子全体が木炭による樹拓を施した和紙で一本一本覆われ、台座にはその地域で採集された穀物や種子、乾燥した花などが樹脂に封じ込められている。

鳥かご一つひとつには、宮森が旅を重ねて出会った土地の記憶が込められており、台座に埋め込まれた穀物は、その土地に由来する「鳥の餌」として選ばれている。

屋根のない構造は、鳥たちがいつでも自由に出入りできる空間を示しており、それは境界のない記憶と移動の象徴でもある

Bird Cage Without Roof #1      2009 Birdcage, Resin, Washi, Charcoal, Corn  21 (diameter) x 35 (H) in.

Bird Cage Without Roof #1      2009
Birdcage, Resin, Washi, Charcoal, Corn
21 (diameter) x 35 (H) in.

 
Bird Cage Without Roof #4     2009 Birdcage, Resin, Washi, Charcoal, Grain 11 ½ x 8 ½  x 13 ½ in.

Bird Cage Without Roof #4     2009
Birdcage, Resin, Washi, Charcoal, Grain
11 ½ x 8 ½  x 13 ½ in.

Detail of Bird Cage Without Roof #1

ディテールDetail of Bird Cage Without Roof #1