1000年生きた私―環世界のなかで

2023

宮森敬子はここ数年、家族の100年ほどの出来事について思索を重ねてきた。100年とはおよそ三世代に相当し、私たちが想像しうる時間のスケールである。

本展では、人間の生きる環境が他者との関係性の中にあること、そして、ゆるやかにつながるエネルギーの全体の中で私たちが生きているという視点から、時間や存在について問い直すことを試みている。人間中心の世界観では捉えにくい、生き物それぞれの知覚に基づいた「環世界(Umwelt)」の中にある〈私〉を想像することが、本展のひとつのテーマである。

鑑賞者は、会場内に設置された木製のボートに横たわり、枯れてゆくバラの花びらに囲まれながら、自らが他の物質へと変化していく物語を想像することができる。

壁面には、一宮で採集した樹々の拓本が展示されている。30年もののイチイガシの樹皮、樹齢400年のイチイガシの断面、かつてサギが棲んでいた森の倒木、そして同じ根を共有していると思われる、仲良く並んだ2本の樹木の拓本などが、木炭で和紙に写し取られている。

コンセプトスケッチ

枯れゆくバラの花弁の中で、自分が他の物質になってゆく物語を想像

展示会場では、宮森敬子の仮面作品を用いた中村愛音によるパフォーマンス《ほねひとつ(a bone)》も披露された。中村は、独自のトランスボーダーアートで知られる表現者であり、本展においては、宮森の提唱する「Umwelt(環世界)」や「エネルギーとしての存在」といったコンセプトを独自に解釈し、音響的かつ視覚的なパフォーマンスによって空間を再構築した。

声、動き、作曲、パフォーマンス 中村愛音  インスタレーション、マスク 宮森敬子 

鑑賞者は舟に乗って渡辺梓(似て非works)のナレーションを聞く

僕は死んで 川に浮いている。 

花ひらと混ざって 土になるんだ。

森のいきものたちに 僕のカラダをあげるため。

 

ある日 コナラの種がポトンと落ちた。

ふかふかの土になった僕の中で 出てきた芽。

僕は 小さな芽になるんだ。

30年たって 若い木に、

それから更に300年経って もっと大きな木になった。

森の生き物たちに ドングリをあげるため。

 

ある日 白いサギが巣を作った、

1000年もの歳月を経た枝で 卵がかえる。

そして僕は 小さなひな鳥になったんだ。

会場 mhPROJECT_ノコギリ二

謝辞 (敬称略)石刀神社、地蔵寺、河内屋石材店、喫茶アサ、渡辺梓(似て非works)、二坪の眼